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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)126号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

三1 そこで、被告の不法行為の成否につき検討するに、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ<る。>

(一) 小倉千種は、昭和五三年四月ごろ本件店舗を山口正秀から賃借して麻雀業を営んでいたが、同年八月ごろ本件店舗営業権を売却することを決意し、代金を当初は五五〇万円、のちに四五〇万円と指示して仲介業者に売却の仲介を依頼していた。後藤誠は、本件店舗営業権の売却の仲介に関与することとなり、昭和五四年一一月ごろ株式会社平喜屋の社員雨宮廣明に対して代金を店舗賃貸借の保証金を含めて一〇〇〇万円という条件で買主を捜すことを依頼していた。また、後藤誠は、被告の経営する池袋駅東口先の麻雀屋「伯爵」にも出入りし、昭和五五年の夏ごろ被告に対しても同様の依頼をしていた。

被告は、小倉の売却代金の指示が四五〇万円に下がるのをみて本件店舗に小倉を訪れ、売却条件等の事情を聞き、小倉は、その際、被告に本件店舗の一か月の売上げが概ね二〇万円程度であることを告げた。

(二) 原告は、昭和五五年八月ごろ、中央区日本橋において経営していた麻雀屋を閉店し、別の店舗を経営しようと考えていたところ、麻雀用具のメーカーであるかきぬま株式会社の社員を介して被告と知り合い、被告から本件店舗営業権の買取りを勧められた。そこで、原告は、被告に伴われて本件店舗の下見をしたが、その際の滞在時間は、約四、五分間であり、被告は、原告を小倉に紹介することをしなかつた。その直後、被告は、原告に対して本件店舗営業権の代金が家主に差し入れる保証金を含めて八〇〇万円であること、池袋は盛り場であり日本橋や神田よりも麻雀業営業権の代金の相場が高いこと、しかし夜の客が多いため徹夜の営業が少くなく、売上げ額も高いことを告げて、本件店舗の購入を勧めた。その後、原告は、単独で数回本件店舗の下見をし、そのことを被告に告げたところ、被告は本件店舗で営業に当たつている小倉千種は使用人であり本件店舗が売却されようとしていることを知らないので、原告が小倉と話をすることは困ると告げて原告に小倉との接触を避けさせた。

(三) 昭和五五年九月二八日ごろ、被告は、原告に対し電話で買主が他にいるので早く手付金を支払うよう催告したが、原告が自己資金が足りないので最終的に契約の締結及び履行ができるかどうか確信がない旨告げると、被告は、担保となる物件があるならば、自分が金融機関を紹介するのでなるべく早く手付金を支払うよう勧誘し、被告の言を信用した原告は、同月二九日前記「伯爵」において被告に対して手付金五〇万円を支払つた(五〇万円が同日支払われたことは当事者間に争いがない。)。

同日、被告は、後藤誠と共に本件店舗を訪れ、小倉に対して後藤誠が買主となること、手付金として五〇万円を支払うことを申し入れた。小倉は、後藤誠とは初めての対面であつたが、手付金を支払う者が優先すると考え、後藤誠との間に代金を四四〇万円として本件店舗営業権の売買契約書を作成した。

(四) 一方、原告は、本件店舗営業権の買取り代金の調達については、友人の櫻庭たつに対して一五〇万円の貸金債権を有していたところ、右櫻庭は、原告に対して原告の営業資金の借入れにつき自己所有のマンション(豊島区雑司が谷三丁目一四五三番地二所在の鉄筋コンクリート造り陸屋根六階建ての二〇二号室)を担保に提供する旨申し出ていたので、右物件に担保権を設定することとして、多数の金融機関に融資の申込みをしたが果せず、結局、最終的には、被告の申し出により、右物件に極度額九〇〇万円の根抵当権を設定することとして、被告から直接六〇〇万円の融資を受けることとした。被告の右融資においては、契約書上は借受人及び根抵当権設定者が右櫻庭とされたが、その融資金六〇〇万円は直接原告に交付され、その返済は元金につき四五〇万円を原告が、一五〇万円を櫻庭がそれぞれ負担することとされた。原告は交付を受けた右融資金六〇〇万円を本件店舗営業権の購入代金及び本件店舗の内装工事代金に充てた。

(五) 原告は、同年一〇月九日被告の立会の下で後藤誠に会い、同人に対して代金の内三〇〇万円を支払つた(このことは当事者間に争いがない。)が、その際、被告から後藤誠が本件店舗営業権の売主である旨紹介された。

その後、同月一一日被告と後藤誠は、本件店舗の存する共同ビルの二階の大開興業の事務所で小倉と会い、同人に残代金三九〇万円を支払つた。そして、その場に同席した貸主の山口正秀と後藤誠は、本件店舗につき賃借人の名義を原告とする店舗賃貸借契約書(甲第二号証)を作成したが、その際、後藤誠は、右山口及び大開興業の関係者らに原告があたかも後藤誠の親族であるかのように「店は身内の者に営業させる。」と告げていた。

(六) また、同月一六日、原告は、被告の立会の下で後藤誠との間において本件店舗営業権の売買契約書(甲第一号証)を日付けを昭和五五年九月三〇日として作成し、代金総額を六二五万円(保証金を除いたもの)とした上、後藤誠に対して残代金二七五万円と保証金一五〇万円を支払つた(残代金二七五万円が支払われたこと及び原告と後藤誠間で右売買契約が成立したことは当事者間に争いがない。)。そして、その際、後藤誠は、原告に対しすでに山口との間で原告名義で作成してあつた本件店舗の賃貸借契約書を交付し、原告の質問に答えて本件店舗の売上げ額は、一か月九〇万円に達する旨答たが、原告は少くとも半分の一か月四五万円程度の売上げがあるものと考えた。

(七) 本件店舗において本格的に営業を開始するについては内装工事をする必要があつたところ、被告は、そのことを原告に勧め、工事請負業者の紹介等を行い、原告は、その紹介に係る株式会社梵企画に対して一五三万円の工事代金を支払つて内装工事を行わせた。

(八) 原告の営業開始後、本件店舗の一か月の売上げ額は約二〇万円程度にとどまつていたが、昭和五六年三月ごろ、原告は、賃料の支払のために大開興業の事務所を訪れ、責任者に会つて原告が後藤誠に支払つた本件店舗営業権の代金が極端に高額であることを知つた。

(九) また、被告の前記貸付金についての原告と櫻庭の返済金の支払は遅滞したので、被告は、昭和五六年に根抵当権の実行の申立てを行い(当庁昭和五六年(ケ)第九四五号)、競売開始決定がされたが、原告は、直ちに大開興業に依頼して本件店舗営業権の売却の手続をとり、昭和五六年八月一八日星加好子に対して本件店舗営業権を代金四〇〇万円で売却し、その代金をもつて被告に対する残債務等(一八三万四七三四円)の支払に充てた。

2 右の事実によれば、被告は、小倉が売却しようとした本件店舗の売却価格が次第に下がつていくのを知り、後藤誠と共謀の上、小倉の指示する売却価格よりも高額で買い受けようとする買主を捜し、売買の仲介又は転売を行い、その差額を利得しようと企てたこと、昭和五五年九月二九日原告が本件店舗営業権を保証金を含めて約八〇〇万円で購入する意思を固めるや、直ちに小倉と後藤誠との間において代金四四〇万円で本件店舗営業権の売買契約を締結し、本件店舗営業権を後藤誠から原告に転売することとしたこと、後藤誠と原告との間の売買契約の締結に際して、被告は原告に対して本来の売主が小倉であること、小倉の売却代金が四四〇万円であることを故意に告知せず、原告をして後藤誠との売買が適切な取引であると誤信させたまま契約締結に至らせたこと、また、本件店舗における通常の売上げ額が一か月約二〇万円にすぎないことを知りながら、これを原告に告知せず、後藤誠が原告に対して右売上げ額が一か月九〇万円であるとの説明を行うのを黙過して、原告に生じた誤解を何ら是正することなく、契約の履行を完了させたことを推認することができる。

そして、前記認定事実によれば、被告が原告と後藤誠間の売買契約において実質的に仲介者として行為していることは明らかであるところ、法律上の資格の有無を問わず、事実上本件売買契約のような取引において仲介者として深く関与した者は、契約当事者に損害を与えるべき事情を知つている限り、それを損害を受けることが予想される者に対して告知すべき信義則上の義務があるものと解される。この見地から本件をみるに、原告の本件店舗営業権の購入価額六二五万円と小倉の売却価額四四〇万円との間には、一八五万円もの差額があるから、当時においても原告に通常の取引で生ずる損失以上の損害が生じているというべきであり、したがつて、被告に右取引について真実を告知すべき義務が生じているものといわねばならず、また、被告の前記各行為が右告知義務に違反していることは明らかである。結局、被告の右行為は、通常の取引において相当行為として許される黙秘行為の範囲を逸脱して違法な欺罔行為と評価すべきものと解される。したがつて、被告は、原告に対して不法行為責任を免れない。

四そこで、原告に生じた損害について検討するに、前記認定事実によれば、原告は、本件店舗営業権を代金六二五万円で購入し、昭和五六年八月一八日星加好子に代金四〇〇万円で売却しているから、結局、その差額二二五万円は、前記被告の不法行為による損害と認めることができる。

なお、原告は、原告の支出した内装工事請負代金一五三万円をも被告の不法行為による損害である旨主張するが、内装工事請負代金は、本件店舗の営業のために支出されたものであり、被告の不法行為がなければ原告が本件店舗営業権を購入することもなく、したがつて右請負代金を支出することもなかつたという意味で、被告の不法行為との間に条件的因果関係を認めることができるけれども、右請負代金の支出により、原告は本件店舗の営業上それに相応する利益を得ているものというべきであるから、原告が本件店舗において営業を行つている以上(前記認定事実によれば、原告は、昭和五五年一一月ごろから昭和五六年八月まで営業していたことが認められる。)、被告の不法行為と右内装工事請負代金との間には相当因果関係がないものと解すべきである。 (慶田康男)

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